Weekend 2021 March(2)
3/26(Fri)-28(Sun) Amicalola Falls SP, GA |
アメリカ東部では最難レースの一つといわれるウルトラマラソン=Georgia
Death Raceを完走してきました。 1、 プロローグ 全米でも一番人気のあるWestern States 100マイル完走を目指して5年(+1年)が経過したが、抽選に当たる様子は全く無く、昨年の大会もコロナ禍の中で中止となってしまった。毎年その出場権を獲得するために、この時期には比較的簡単な100マイルである、地元のUmstead 100マイルに出場することとしていた。しかしランナーとしての力が下り坂に差し掛かっている今日この頃、同じレースにばかり走っていてもつまらないな、と最近思うようになっていた。そんな時に目にとまったのが、このGeorgia Death Race (GDR)であった。 |
コースは、ジョージア州北部の山岳地帯をpoint-to-pointで走るもので、登りの総計は5,000mにも達する。それに加えて、不安定な天候がレースを難しくさせており、毎年完走率は50-60%ぐらいである。昨今は非常に人気の高いレースとなっており、こちらも抽選でのエントリーとなっていた。100マイル未満なのであるが、Western States qualifierであるとともに、UTMB 5ポイントもゲットする事が出来る。しかし昨年の春のレースは、コロナ禍のために順延、秋になってようやくコースを往復に変更して開催されたのであった。そのため2021年のレースのエントリーも、11月になってからであった。当たったらいいな、ぐらいの軽い気持ちでエントリーしてみると、逆にコロナ禍のためであろうか、何とこの超人気レースのエントリー資格をゲットしてしまった。同じ日に開催されるUmsteadの方は、キャンセル料金不要で、全額戻ってくるということで、2021年の目標をこちらに変更することとなった。 |
大会は土曜日の5時スタートなのだが、シャトルバスが2時45分に出発するために、金曜日には現地入りする必要がある。その前日の木曜日には、竜巻を伴う豪雨がアメリカ南部を襲っており、トレイルを含めてそこらじゅうで洪水が発生していたが、幸いにもトレイルに倒木などの被害は無かったようだ。 5時間のドライブで、まずはゴール地点のAmicalola SPに到着する。 |
ここは、アパラチアントレイルの南の起点としても知られている。 |
時間もあるので、周辺のハイキングに出かける。増水のために、滝直下のトレイルは閉鎖されていた。明日のコースの下見も兼ねて、滝の上まで上がってみる。 |
ゼッケンは、金曜日にゴール近くのAmicalola Lodgeでゲットすることが出来た。 |
夕食のスパゲティをここで頂く。このロッジに宿泊するのもいいであろうが、コロナ禍でもあるので、トランクスルーにした後部座席のベッドで就寝した。 |
そして1時過ぎに起床、2時過ぎにシャトルバスに乗り込む。バスは谷あいの道をVogel State Parkまで進むのだが、1時間20分もの長いドライブは、レース完走の不安を煽るには十分であった。 |
会場に到着すると、200人超の精鋭ランナーが集うとともに、100人以上のサポーターが周囲を囲む。このレースの特色であるスパイク=釘であるが、スタート地点で渡される。この350gのおもりを、ゴール地点まで運ばなければいけないのだ。 |
そして、まだ真っ暗な5時にスタートだ。 |
今回のレースの目標であるが、3週間前のウルトラマラソンのために右膝に違和感が残っており、まずは怪我をしない事が第一であった。そしてWestern
States qualifyのために23時間以内での完走である。エクセルファイルからの予想タイムから、21時間を目標タイムとして設定した。このコースのポイントは、後半にどれだけ足を残しておくかなので、前半は若干抑え気味に入ることにした。気温はやや高めなので、Tシャツとアームカバー、指出し手袋、短パンでスタートすることにし、雨具、ヘッドランプ、ジャケット、レスキューシート、ホイッスル、ボトルX2(=必須)を背中に携行した。 |
3、White
Oak AS1 (8M)―Fish Gap AS2 (15.5M) ここからのコースは、ギザギザに連なる山脈を直登したり、右に左にトラバースしていくトレイルとなる。トレイルは傾斜の強い斜面のトラバースもあるので、グリップの悪い靴を選択したランナーは苦労しているようだ。iNov8は泥でもグリップがいいので、快適に追い越していく。この辺りで夜も明けてくる。登っては下り、登っては下りを繰り返すために、ペース配分が難しい。そしてFish Gapに到着する。ここでヘッドランプを背中に収納する。 4、Fish Gap AS2 (15.5M)―Skennah Gap AS3 (22M) 話には聞いていたのだが、非常に体温調節には難しいトレイルだ。稜線や北側斜面は寒く、南側には熱気がこもっている。そして時折直射日光も差し、気温がぐんぐん上昇してくるのを感じる。登りは早歩きで、平坦と下りは走るようにして、ピークを越えていく。6−7回それを繰り返すと、右に分岐だ。非常に走りやすいダウンヒルを下っていけば、多くの人がいる舗装路に面したSkennah Gapだ。ここは往復セクションになっているので、自分の順位の確認も出来るであろう。到着は10:10、ここまで5時間ちょっと、目標の21時間には45分の貯金だ。ここまではCruel Jewels 100Mの最初の区間ともなっている。 5、Skennah Gap AS3 (22M)―Point Bravo AS4 (28M) まずは先程下ってきたトレイルを800ft登り返す。このレースは非常にアップダウンが多いとともに、現在地の確認が困難であるため、高度計があると重宝するであろう。ここまでの気温上昇と高湿度に対応しきれず水分補給が追いついていないので、ペースが落ちてきて、この辺りの登りから抜かれ始める。稜線に出てからも2つのアップダウンを繰り返した後、緩やかなダウンヒルだ。何とかスピードを維持するようにして、舗装路に面したPoint Bravoに到着する。かなり交通量の多い道なので、警察官の方々が交通規制をかけていてくれた。 |
6、Point
Bravo AS4 (28M)―Sapling Gap AS5 (33M) このコース全般の特徴として、エイド間の距離の割にはかなり変化のあるアップダウンが続き、想像以上に負担を感じる事であろう。エイドを出てすぐに強烈な登りが待ち受ける。午後に入り、気温もどんどん上昇してくる。何とかピークを越えて、ダウンヒルで吊り橋へ。今週の豪雨のために、激流となっていた。そしてここから再び急登だ。200m足らずの登りなのだが、今までの登りの疲労が蓄積していて体にこたえる。暑い日差しの中、水分を全て飲み干し、ようやくエイドに到着する。濡れタオルを頂いて、体温下降に努める。体も胃も拒否反応を示し始めているのだが、エイドに長居は無用だ。ある程度リカバーした後、出立する。 7、Sapling Gap AS5 (33M)―Long Creek AS6 (41M) エイドを出た後、まだまだ登りが続く。その後は再び小さな無数のアップダウンだ。もう何回同じ風景を見ただろうか、記憶が落ちてくる頃、伐採地=広大な芝斜面に出て、それを左に下れば林道に出る。この林道をなるべく走って処理すれば、Long Creek ASだ。これで中間地点を通過したことになる。ここからしばらくは林道ランが続くので、気は少し楽になる。エイドでは基本的に水分補給で、食べ物が全く入らない状況が続く。 |
8、Long
Creek AS6 (41M)―Winding Stair AS7 (47M) ここからは整備された林道だ。緩やか下りが多いので、なるべく走るようにして距離を稼ぐ。林道はずっと斜面をトラバースしていくので、現在地の確認も目標地点の確認も難しいであろう。途中でアパラチアントレイルが横断しているはずのだが、暑さもあって、記憶に残らないほど憔悴していた。最後に緩やかな登りをこなして、大勢の人の集うWinding Stairに到着する。地面に倒れこんで体の悲鳴が収まるのを待っていると、突然の豪雨だ。ぐっと気温も体温も下がってくるので、雨具を装着して温かいラーメンスープを頂いた後、17:15に出立する。21時間ペースには、15分の貯金となった。 |
9、Winding
Stair AS7 (47M)―Jake Bull AS8 (54M) やや荒れた林道のために、ペースを落としながら下っていく。体も限界が来ている。水分は良く吸収してくれているようだが、胃のむかつきは止まらない。ごく微量の胆汁の混じった胃液を吐き出すと、やや楽になる。むむむ、これはやばいなぁ。胃だけではなくて、小腸も悲鳴を上げているようだ。そんな事をしているので、ここの下りでは6-7人に抜かれる。3マイル近く林道の下りをこなしていくと、左のトレイルに入っていく。元気ならば楽勝で走れるトレイルだが、今の体では小走りが限界だ。細かいアップダウンをこなしていくと、林道をクロスして右の西側の日の当たる斜面のトレイルだ。繰り返しになるが、日光の当たり具合により、気温の変化が多いコースだ。熱がこもっていて、額から汗が噴き出す。ずっとトラバースしていくトレイルから貯水池に出て、更にここから永遠に続くのかと思える程の尾根と谷を越えていけば、ひょこっと林道に出る。そしてJake Bull ASに到着する。体も限界のようだ。ラーメンスープを頂くが、5分後には全て吐き出してしまった。しかし不思議なもので、吐き出すと胃も体も軽くなる。エイドに長居は無用だ。コーラを少し飲んで力をつけた後、ヘッドランプを用意してエイドを出立する。次のセクションまでは、登りの続く11マイルということで、ボトル2本に加えて500mL1本を背中に補う。時間は19時30分、関門までは2時間の余裕だが、21時間ペースには5分の遅れとなった。でも、明るいうちにここまで来れて良かった。 |
10、Jake
Bull AS8 (54M)―Nimblewill AS9 (63M) スタートしてすぐは、先程と同様に尾根と谷を越えていくトレイルだ。これが11マイルも続いたら死ぬなと思う頃、突然林道に出る。そしてそれを1マイルこなせば、右折して舗装路だ。軽快に走りたいところだが、残念ながら今の私にはその力は残っていないようだ。小走りと早歩きでこなしていく。道は林道に再び戻り、登りが始まる。水分補給をしながら早歩きをしていくのだが、とうとうゲータレードも吐く状況に陥ってしまった。水分も底をついてきたので、綺麗(?)な谷川の水を飲んでみるのだが、これも全て吐き出してしまう。デリケートな胃を持ってしまって大変だ。傾斜も増してきて、このセクションでも7-8人のランナーに抜かれる。なんとか高度計を見ながら歩きとおし、左の荒れたトレイルに入っていく。ここは泥のためにかなり状況が悪くなっている。眠気も襲ってきて、ランに集中することが出来ない。前方に明かりのようなものも見えるだが、さては幻覚だろうか?いや違うよ、ヘッドランプの死に掛けたへろへろの女性ランナーでした。このランナーを助けながら、何とかエイドに到着する。時刻は、21時間ペースと同じ22:55だ。相変わらず胃は何も受け付けないが、水をしっかりと補充して、少しのスナックを手に出立する。さあ、レースもいよいよ大詰めだ。 |
11、Nimblewill
AS9 (63M)―Amicalola Falls State Park Visitor Center (74M) スタートしてしばらくは林道の下りだ。気温も下がってきて、また最後のセクションに入ったこともあるのだが、少量のスナックを胃が受けつけてけてくれた事で、体が動き始める。前のヘッドランプを追って、ランナーを久し振りに追い抜く。しかし林道からトレイルに入ると、またしても無数のアップダウンが体を苦しめる。トレイルが判然としない部分もあり、コースマーキングを頼りに足を進める。ここに来てのロストは致命的だ。そして前を行くヘッドランプと声を追うことで、モチベーションを保つ。永遠に続くのかと思われるほどの暗闇のトレイルであったが、Amicalola Lodgeの明かりが見えてくると、このレースもようやく終わりが見えてきたことを悟る。ここからは更にペースを上げていき、前のランナーを抜いてく。舗装路を横切り、ダウンヒルに入っていく。ここでも2人抜いていき、ゴール地点の横を通過して、最後のアップダウンに入っていく。時刻は1:10だ。本来はAmicalola Fallsへと登っていくルートなのだが、この雨でトレイルがクローズされているようだ。これなら21時間を余裕でクリア出来そうだ。急登に備えて残しておいた力を出して、左の斜面を余裕のランでこなしていく。アップダウンのトレイルを全て走ってこなした後、最後は川を渡渉して声援の待つゴールラインだ。 |
20時間42分50秒、212人中69位、86人が途中棄権であった。携帯していたスパイクを棺桶の中に放り込んだ後、景品のスパイクをゲットするのであった。これで13回目のWestern States 100M標準タイムクリア、去年に引き続き今年もUTMBポイント5を獲得する事が出来た。通算36本目のウルトラマラソン、132本目のマラソン+となった。全米ウルトラマラソンは、これで11州制覇となった。 |
バックルの代わりにレール釘、その他にコップ、Tシャツ、バフをもらえた。 |
自分用お土産に、アパラチアントレイルグッズを購入する。いつの日か、全通出来るかな? 少しの仮眠の後は、帰路に就く。やはり睡魔が襲ってきて、再度の仮眠が必要であったが、正午には帰宅することが出来た。 |
12、エピローグ 膝も万全で無かった上に、レースでは熱中症に伴う胃のトラブルに見舞われてしまった。しかし、足も全くの無傷で完走する事が出来た上に、目標タイムの21時間を切ることが出来た。まだまだ速く走れるコースではあると思うのだが、やはりこのコースの難しさは、永遠に続くかと思われるアップダウンと、大きな天候・気温の変化だと思う。そしてこのレースの完走率の低さを見るに、これらの困難を受容できるメンタルがあってこそ、完走できるのだと痛感した。 最後に、このような大きなトレイルレースを開催してくれたレース関係者に、大きな感謝を示したいと思う。5つのカウンティを走破するとともに、トレイルの使用許可、シャトルバス、エイドステーションのボランティアの手配などなど、物凄い労力であったと思う。レース後の食事なども無い寂しいコロナ禍の状況ではあるが、ワクチンとともにこのコロナが収束して、“普通”の生活に戻れる事を強く願う。 |