Weekend 2021 May(2)



 5/14(Fri)-16(Sun) Vogel State Park, GA

 Cruel Jewel 100Mの存在を知ったのはいつの事だっただろうか? UTMB完走を目指して、2015年に初めての100マイルをVermontで走ったのだが、その頃はハードな100マイルコースなど自分が走れるものとは全く思えなかった。そんな中、毎年UTMBのポイントを重ねるごとに知ったのが、毎年アメリカ・コロラド州で行われるHard Rock 100Mという超ハードなレースの事であった。参加人数が少ないのだが、私の大好きな山岳コースという事で、興味を持ったのを記憶している。しかしこれに参加するためには、UTMBやUTMFを含めて世界の難関レースを完走しなければ、エントリーすることもままならない。まずはUTMB同等レベルの大会ということで、2018年にAngels Crest 100Mを完走、初めてHard Rockに申し込むことが出来た。そして2019年に念願のUTMBを完走、しかし2020年はコロナ禍のために、Hard Rock qualifying raceを走ることすら出来なかった。全米には16のHard Rock qualifying raceがあるのだが、このコロナ禍の状況でも移動しやすい東海岸近辺には、2つしか大会が無い。そんな中で目を引いたのが、このCruel Jewel 100Mであった。
 このCruel Jewelの特徴として、登り累計が10,000mを超え、制限時間も48時間という長いものだ。優勝タイムも24時間なので、かなり困難なレース設定である。Western States 100M, Hard Rock 100M qualifying raceのみならず、UTMB 6ポイントレースでもある。2020/10/14には既にsold outとなっていたのだが、waiting list(16番目)にエントリーすることととなった。その後、100マイル2本を含めて南部の難関レースを完走、徐々に体を作り上げていった。そしてとうとう2021/3/6にはキャンセルが出て、このレースに出場することが決定した。
 コースはGeorgia州北部のVogel State Parkからの往復コースで、前半21マイルはGeorgia Death Raceとかぶっている。スタートは、金曜日の正午スタートという変則レースだ。家からは263mile = 4時間23分なので、金曜日の朝に出発することとした。道は、Asheville経由だ。
 ゼッケンなどは、スタート前に簡単にゲット出来る。2か所のドロップバッグ地点があるのだが、これもスタート前に預けることが出来る。
コロナ禍も峠を越えたアメリカでは、200人の野外活動まで出来るようになったたので、会場ではマスクをしている人は殆どいなかった。
 会場では、シアトル在住のエリートランナー=Fさんにお会いすることが出来た。

 そして、12時に4つのグループに別れての3分ごとの時間差スタートだ。
1 Start - Wolf Creek AS#1 (3.7M) - Fire Pit AS#2 (8.4M)
 まずはキャンプ場の中の舗装路を走っていく。この時期のGeorgiaらしからぬ、日差しも雲で遮られた涼しい天気だ。雨の予報も出ていないので、レインギアも最小限にすることが出来た。すぐに登りのトレイルに入った後、舗装路を横切り、700ftの下りのトレイルに入っていく。前回のGDRでは前半からプッシュしたのだが、今回はリラックスして下っていく。そしてAS#1を通過、橋と道路を渡って、2100ftの登りにとりかかる。傾斜は走れないほどでもないのだが、ここは無理せず歩きで登ることが出来た。そして頂上からは、緩やかなダウンヒルに入っていく。2:12:54、62位でAS#2に到達することが出来た。GDRとは異なり、2つ目の 林道合流点だ。
2 Fire Pit AS#2 (8.4M) - Fish Gap AS#3 (15.7M)
 まずは緩やかな登りをこなした後、左の山に登っていく。そして下りの斜面のトラバース、更に大きな下りで林道を横切る。ここはGDRのASだ。そこから再び急坂を登った後、右への斜面のトラバースを下ってAS#3だ。4:10:09、56位で到達することが出来た。下りでは私の方が早いようだ。しかし、アップダウンが多いせいか、胃が驚いてあまり食が進まない。
3 Fish Gap AS#3 (15.7M) - Skeenah Gap AS#4 (20.6M)
 まずは右の斜面の平坦トラバース、そして左の斜面の平坦トラバース、更に右の斜面の平坦トラバース、少々のアップダウンは押していける。そしてここから左の小山2つを超える急登だ。ここから100m下れば、GDRと同様に右のトレイルに入っていく。快適な下りをこなして、5:29:03、56位でAS#4に到達する。ここは舗装路を横切るので、多くのサポーターがいる。前回のGDRとは、10分程度の遅いペースだ。

4 Skeenah Gap AS#4 (20.6M) - Wilscot Gap AS#5 (25.5M)
 ここからは未知のルートだ。まずは道路を30m南に走った後、右斜面に取り付く。方向を大きく変えながら、緩やかに登った後、いくつものコブを超えていく。林道も2か所遭遇する。斜面としてはあまりアップダウンが無いのだが、道も悪いのであまりスピードが出ない。最後は緩やかに下って、明るいうちにドロップバッグのあるAS#5に到着する。6:53:52、57位であった。ここも舗装路を横切るために、多くのサポーターがいる。ここで念のため持参していた小さなヘッドランプをデポ、大きなヘッドランプ、上下のウインドブレーカーを背中に背負う。また、ここから日没タイムに入ることもあり、デポしていたポールを持参する。

5 Wilscot Gap AS#5 (25.5M) - Old Dial Road AS#6 (31.0M)
 寒くなってきたので、温かいスープを頂いたのだが、ちょっと胃に合わなかったようだ。ゆっくりペースを落として登りにとりかかるのであるが、気持ちが悪いので自分で嘔吐する。吐いてしまえばましになるのだが、距離よりもアップダウンの蓄積があり、体に疲労が蓄積しているのがわかる。700ft, 300ftの登りがあるのだが、スピードもかなり落ちてくる。その後長い下りをこなして、何とかヘッドランプを使わずにAS#6に到着することが出来た。8:48:36、67位であった。ここも大きな林道があるので、多くのサポーターがいた。距離はまだ31マイルなのだが、体の感覚としては50マイル近くの疲労だ。うまく栄養補給が出来ていないこともあり、リタイヤも頭によぎるのだが、とにかく前を目指して足を進めることとする。

6 Old Dial Road AS#6 (31.0M) - Stanley Gap AS#7 (36.9M)
 AS#6からはわずかに登るのだが、体が悲鳴をあげている。エイドで摂取したものも、あえなく自己嘔吐する。そしてトレイルを下っていけば、大きな川沿いの道に出る。本来は走るべき道だと思っていたのだが、体が拒否権を行使している。橋を渡って対岸の大きな道へ。そして左折して緩やかな登りの舗装路をよたよた走っていく。時刻も22時を過ぎ、激しい睡魔が襲ってくる。気温もどんどん下がってくる。右に左にコーナーを曲がり、未舗装路になって少し登れば、AS#7だ。10:43:34、67位で到達することが出来た。体がもう限界だ。強くリタイヤを訴えているのだが、それを決断するのは今ではない。マットと寝袋を提供してもらい、15分程度、焚火の横でゆっくりと体を休める。ここまで吐くことの無かった水のみを、摂取するようにする。そして上にはウインドブレーカーを着て、ゆっくりとエイドを発つ。とにかく前に進まなければいけない。いつもの登りながら回復させる作戦だ。

7 Stanley Gap AS#7 (36.9M) - Deep Gap AS#8 (41.7M)
 あいかわらず胃の調子はイマイチで、飲んでは吐きを繰り返しながら登っていく。どうやら水は吸収するようで、出てくるのは少量の胃酸のみだ。睡魔もマックスとなってきるのだが、とにかくゆっくりでもいいので、足を進める。1300ftを登れば、小さなコブ、そして左に分岐を見て、右のトレイルに下っていく。ここでトップの選手とすれ違う。まだまだ走って登ってくる元気さだ。Fさんにもこの下りの最後で遭遇する。真っ暗で地形がわかりにくいのだが、右下にはループトレイルを回るヘッドライトが散見される。そして12:50:19、80位でAS8に到達することが出来た。体はもう限界だが、まだ中間点にも達していない。とにかく前に進まなければゴールには到達できないので、最小限の水分の補給、そして胃薬を頂いた後、ループトレイルにとりかかる。

8 Deep Gap AS#8 (41.7M) - Deep Gap AS#9 (47.5M)
 普通ならば走れる傾斜なのだが、全く走れない体になってしまった。息切れも激しい。ゆっくりペースで登りをこなしていく。そして小川を渡った後に左折、対岸の斜面を緩やかに下っていく。折り返してきている鼻息の荒いランナーもいるのだが、自分のペースを維持する。睡魔も最強となる中、トレイルの横には死んだように横たわるランナーもいる。UTMBでも見た事のある、修羅場の風景だ。しかし進まなければゴールは近づかないのだ。下りは少しでも小走りを交える。そして再び川を渡る橋に、セルフチェックポイントがある。ゼッケンに印をつけなければいけないのだ。そしてここから予想外の登りをこなして先程のトレイルに合流、14:46:51、84位でAS9に到達する。辛かった2セクションだったが、もうすぐ折り返しなので、何とか見通しがついたような気がしてくる。

9 Deep Gap AS#9 (47.5M) - Camp Morganton AS#10 (50.2M)
 ここからは舗装路だ。いきなりきつい登りだが、すぐに長い下りになる。小走りで処理していけば、左折して緩やかな登りだ。すれ違うランナーもいるのだが、みんなかなり疲弊しているのがわかる。気温もかなり下がってきて消耗する中、また胃液の嘔吐だ。もう何回自己嘔吐しただろうか、、、。最後に右の砂利道をこなせばAS#10だ。15:38:36、84位で到達することが出来た。気温も40F以下になっているのだが、このエイドは室内&暖炉付きなので助かる。久し振りに固形物を胃に納めた後、仮眠ベッドで15分ほど横になる。ここまで来れば、とにかく諦めなければゴール出来るはずだ。

10 Camp Morganton AS#10 (50.2M) - Deep Gap AS#11 (52.9M)
 気温も一番低い時間帯なので、帽子、バフ、上下にウインドブレーカーを装着して出立する。いきなり女性ランナー(Mary)に抜かれるが、この先このランナーがペースの指針になってくれる。体もやや軽くなってきたので、パワーウオークも出来るようになってきた。自分の後続ランナーもここでチェックすることが出来る。長い登りをこなした後、短い下りで右のトレイルに入っていく。そしてAS#11に17:01:49、83位で到達する。

11 Deep Gap AS#11 (52.9M) - Deep Gap AS#12 (58.7M)
 先程回ったループなので、気持ちもやや楽になってくる。下りではペースを上げて、壊れたランナーを抜いていく。夜空も白みだしてくるので、気分も晴れてくる。そして、胃が少量でも受けつけてくれるので助かる。そしてAS#12に18:51:59、75位で到達する。ここからは気温も上昇してくるはずなので、ここでウインドブレーカーを脱ぐ。ここからは中間点のポイントとなる、2つの大きな登りが待っている。

12 Deep Gap AS#12 (58.7M) - Weaver Creek Road AS#13 (63.7M)
 まだまだ本調子ではないのだが、1000ftの登りに取り掛かる。うまく目標ランナーを見つけて、ペースを維持する。そして登りきった後は、右の分岐の下りにとりかかる。下って平坦、更に下ってやや登り、更にずっと下り、合計1400ftの下りでAS13に到達する。この区間でも、先行ランナーを確認することが出来る。登りはかなり遅いのだが、下りでは私の方が早いようだ。20:42:51、78位でAS#13に到達する。

13 Weaver Creek Road AS#13 (63.7M) - Stanley Gap AS#14 (69.1M)
 ここの登りが、このレースのキモだ。とってつけたような往復トレイルなのだが、1400ft下ってきたトレイルを再び1400ft登るのは、精神的にもかなりこたえる。高度計も駆使して、パワークライム&ランで処理していく。8時に56Mレースがスタートするのだが、ここでは10人程度のスピードランナーとすれ違う。1400ft登りきれば、平坦区間、そして下りに入っていく。ここもいいスピードで処理することが出来た。23:30:47、76位でAS#14に到達することが出来た。夜中のAS#7と異なり、多くのサポーター達がいた。

14 Stanley Gap AS#14 (69.1M) - Old Dial Road AS#15 (75.0M)
 明るくなった道路を、力を抜いて走っていく。ジョージアの暑い太陽が照り付けるのだが、水分補給を続けていくようにする。わずかに下っているので、とにかく僅かでも走るようにする。右折して川沿いの道に入り、800mで古い橋を左に渡る。更に800mで左の登りのトレイルにとりかかる。これをいいペースで登れば、AS#15だ。24:51:16、79位で到達することが出来た。

15 Old Dial Road AS#15 (75.0M) - Wilscot Gap AS#16 (80.5M)
 ここから1200ftの登りだ。気温も上昇してくるので、かなり消耗してくる。平坦と下りは走ることとして、登りはパワークライムで処理していく。しかし、下りのセクションではまた気分が悪くなる。自己嘔吐してみると胃液だけなのだが、なぜかすっきりしてまた走ることが出来る。嘔吐している間に抜かれるのだが、うまく下りをこなして、27:34:08、81位でAS#16に到達することが出来た。ここにはドロップバッグがあるので、新しいヘッドランプに交換する。エイドのスタッフが何から何まで面倒を見てくれて助かる。ここまで食事は殆ど入らないのだが、スイカだけは受け付けてくれる。ここでもなるべくスイカを多く摂取する。残りマラソンの距離なのだが、ここからはかなりの重労働だ。

16 Wilscot Gap AS#16 (80.5M) - Skeenah Gap AS#17 (85.4M)
 ここからは600ftの登りがあるのだが、アップダウンが続くとともに、道も右に左に曲がるので、スピードが全く上がらない。西寄りの日差しもかなり浴びるので、消耗もかなり激しくなってくる。ここでも自己嘔吐ストップが入るのだが、何とかもちこたえて29:43:28、80位でAS#17に辿り着く。再び体が危険信号を発しているので、日陰で横になって体温を下げる。しかし5分経てどもそんなにも回復しないので、意を決してエイドを出立する。今にも胃の中のものを吐いてしまいそうなのだが、とにかく明るいうちに前に進むことにする。

17 Skeenah Gap AS#17 (85.4M) - Fish Gap AS#18 (90.3M)
 ここからは1000ftの登りだ。高度計を駆使して、ゆっくりとしたペースで登っていく。稜線に出て左折、ここで元気のいい女性ランナーに抜かれるのだが、何とか彼女を目標に食らいつくことにする。きつい下り、登り、きつい下りとこなした後、左斜面をトラバースしていく。平坦なのだが、彼女にくらいつく。気温も徐々にさがってくるので、徐々にリズムもついてくる。次に右斜面のトラバースに入るのだが、ここで抜き返す。以後、彼女を見ることは無かった。更に走りにくい左斜面のトラバースをこなして、31:59:02、83位でAS#18に到達する。
18 Fish Gap AS#18 (90.3M) - Fire Pit AS#19 (97.6M)
 ここまで来ると、ASに長居は無用だ。補給を行った後、出立する。山焼きのあった左の斜面のトラバースで、Maryを抜き去るが、次の右への斜面の登りで簡単に抜きかえされる。登りのエンジンに問題があるようだ。そしてこの山の登りで、日没を迎える。長袖を着用するとともに、ヘッドランプを装着する。強烈に下った後、また登り返しだ。辺りは暗闇となり、現在地の確認が困難となってくる。トレイルも非常にテクニカルなものだ。アップダウンを依然こなしていくのだが、本当にここを通ったのであろうか?行きと比べてかなりてこずるトレイルである。もう40時間近く寝ていないので、睡魔もまた強烈に襲ってくる。トレイルも判然としないので、ここから自然と編隊を組むようになり、再びとMaryとトレインを組む。世間話をしたりするのだが、全く先の見通しが立たない。左は切れ落ちており、ずっと登りっぽいので、スピードも上がらない。周囲のランナーもかなり消耗してきているので、自然とトレインも連結されてくる。恐らくこのレースで最悪のセクションであろうか、ここに3時間近く費やして、35:14:12、76位でようやくAS#19に到達する。かなりのリモートエリアなので、少ないエイドサポートだが、このASが無ければリタイヤは必然であろう。さあ残りは8マイル、40時間は切れそうだ。

19 Fire Pit AS#19 (97.6M) - Finish (106.0M)
 初めの緩やかな斜面は7-8人の編隊を組むのだが、すぐに始まる800ftの登りで完全に離れ離れとなる。リズムで走れないことも無いのだが、息が続かない。完全に一人旅となるため、ルートをミスしたら大変だ。何とか最高点に到達した後、息を整えながら下りに入っていく。いったんリズムを掴めば、高速で下る事も出来るのだが、ここでの怪我も苦しいのであまり無茶はしないようにする。途中でMary他に追いついて、再びトレインを形成する。2100ftの下りで、舗装路に出る。ここで橋を渡って、700ftの最後の登りにとりかかる。やはりこの登りでも、すぐに置いていかれてしまった。行きは平坦にも感じられたセクションであるが、100マイル走った後の体には、とても走って登れる傾斜では無い。しかし僅かでも平坦となるならば、プッシュして走るようにする。登りに嫌気がさす頃、舗装路に出る。ここで集団もとらえる。足元はかなり荒れたトレイルなので、下りは無理をしないようにトレインを組んでいくが、39時間も近いことがわかっていたので、最後の力を振り絞ってラストスパートに入る。そして最後にキャンプ場の舗装路だ。マイル9分台のペースで加速して、38:52:35、74位でゴールする。もう3時近くのゴールだった。

 バックルは、従来のものの2倍以上、重さも520gだ。 
 マグカップやシャツもレース前にもらえた。あまり食事も少なかったので、水分を少し取った後は、とりあえず着替えて車で眠りにつくのであった。

 このコースは、他のUTMBなどとも比較されるのだが、タイム的にはまだUTMBよりも易しい感じだ。景色もそれほど目を見張るものも無い。しかし、永遠に続くとも思えるアップダウンと、ジョージア特有の暑さが肉体をむしばんでいく。また違った分野の難しさと言えるであろう。新たな挑戦を設定し、それを克服するという意味では、非常に面白いレースであった。私のランナーとしての人生も残り短くなってきていることは最近自覚しているのだが、まだ体が許すならば、また新しい事に挑戦していきたいと思う。


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