Running (2007.8)


月日
曜日
距離
内容
タイム
コメント
8/1
       ぎりぎり低空飛行のRespiratory FailureのPneumothoraxのドレーン挿入を頼まれる。地雷が多いので閉口する。
8/2
       外来のシステムであるが、DrではなくてNurse Practionerが見て判断している部分が多いので、ここも地雷がたくさんある。胸から膿を出しているのに、そのまま帰したらあかんでしょ。自分の患者のChest tube入れ。飛行機に乗って帰る人が多いので、経過を見れるような気胸も要注意だ。
8/3
     

 今日も地雷が一杯。Cleveland Clinicは利益追求病院なので、基本的にはベッドは手術をするためにある。そのベッドを術後患者のケアに使うことは、病院自体の減収につながるのだ。しかし日本の感覚からすれば、入院治療が必要な患者は多い。
 両側それぞれ1L以上の胸水、片側1L+抗血小板凝集薬+EF20%、今から飛行機乗るのに胸をタップしろ、、、。結局2人入院させてしまった。

 ようやく1週間のDay callを終えて当直に突入。毎回勉強になる当直であるが、今回も凄い経験をすることが出来た。術後患者の管理から院内ベッドのAfの嵐、首からガンツ後の気胸(何でや!)、そこまで殆ど息つく間も無く3つのPagerがうなりをあげる。極めつけは夜中の2時半のGatric tubeのトラブル(何でこんな時間に入れるんや!)、胸部写真を見ると、Tubeは胸部正中から右下に下降して、右横隔膜で反時計回りに反転、左心臓シルエットに沿って肺尖部にまで達している。気胸無し。これは食道穿孔?いや肺? 既にTubeは抜かれており、患者は息も絶え絶えSpO2=85%、胸の音を聞いた後すぐに穿刺、何とかSpO2を上昇させてもたせた後、ドレーンを挿入する。案の定ボコボコのAir leak。
 長期ステロイド内服患者らしいが、『何の抵抗も無く』挿入出来たはずがないでしょ。スタッフに連絡、経過をカルテにしっかり記載した後、早々に退散する。
 長年医者をしているが、あんな胸部写真を見るのはこれが初めてだ。こんな事が起こるのがアメリカだ。

 手術の腕を磨きに来ているはずが、当直要員になってしまっているのが現実だが、日本の当直の3倍分の経験をすることが出来る病院だ。来週からは手術室に戻れるのだが、、、ボスが後半休暇に入るので、少し暇になるかな、、、。

8/4
       当直明けで死んだように眠る。
8/5
       今日も病院へ。落ち着いていて良かった。一日中雨だったので、Yと約束していた動物園は次回へ。
8/6
       #21 AVR(Bio21),CABGx3(LITA-LAD,SVG-RCA,CX)、#22 AVR(CE21),CABGx4(SVG-RCA,Cx,D1 sequential, LITA-LAD)、82歳と84歳、、、日本もそうだが、アメリカも高年齢手術が増加している。
8/7
       #23 aAo An, AR, Composite(CE 21+Hema26)、Aortaの手術はさすがに早い。術中Dissectionが発生したが、そのまま手術は予定通り続行、術後のCTではどうなっているのであろうか? #24 CAD,COPD, CABGx2(LITA-LAD, SVG-CX)、丁寧にSkeletonizeを教えてもらった。2日続けて19時越えなので、足にくる。家に帰ってすぐにBlack out。キャンプ道具の中から懐中電灯を引っ張り出して、眠りにつく。
8/8
       朝も停電のまま、ごそごそ起き出して出撃する。今日からボスが夏休暇に入ったので、ゆっくりと時間を過ごす。
8/9
       文献を読み漁り、夕方から当直業務へ。不安定な患者もいたが、手術数が全体に少ないので、多きな変化も無く無難にこなすことが出来た(と言っても、睡眠時間0)。
8/10
       11時過ぎに帰宅して、懸案の運転免許の更新にいくが、かなり敷居が高くなっていることを痛感する。敗退した後、眠りにつく。夕方からM先生と庭でBBQ。秋の気配が感じられるようになってきた。
8/11
       患者も少なく、チームの一人が当直なので、この週末は完全オフとする。臨床に移って初めてのキャンプに出撃することとする。
8/12
       ゆっくりLake Erieで過ごした後、帰宅する。Internetで患者情報(Vital signなんかも)が手に入るのだが、落ち着いているようだ。
8/13
       今日もOpe無し。文献を読み漁るとともに、病院の近くで運転免許証の更新を済ます。
8/14
      胸部レントゲン写真の一例 このDiaryを読んでいる方には簡単であろうが、症例提示を行いたい。この患者の疾患は? クリックすると拡大します。


 いつも気軽に声をかけてくれるDr.Nの手術に入ることになった。#25 CAD,AS, AVR(CE25)+CABGx3(LITA-LAD,SVG-OM,PD)、CCFは各Surgeonによって手術術式が異なるのだが、SupraannularのAVRを見ることが出来た。早く終わることに命をかけるDr.S、ゆっくりながらも丁寧に手術をするDr.N、それぞれのいい所を吸収して、自分のスタイルの手術スタイルを構築しなければいけない。それが出来るのが、3ヶ月毎のRotationの利点だ。
8/15
       今日は#26 ASr1(bicuspid),mini-AVR(CE21)、手術術式に関しては、私の頭の中で完全にtemplateが構築されたように思う。他のSurgeonの手術を見て微調整していくとともに、長期的には何が一番大切なのかを学ばなければいけない。
 当直業務へ。他のサービスには重症例が多いので、非常に勉強になる。
8/16
6.0
Jog
   何かと重症が多くて手がかかったが、許容範囲であった。帰宅して子供に挨拶した後、就寝。今日は夕食を作る。食後はみんなで運動をしに、Metroparkへ。久しぶりに走ることが出来た。少し余裕が出てきたということか。驚いたことに、Yの自転車の速さについていく事が出来なくなっていた。
8/17
       #27 aAo An,s/p MVP,Root replacement(SJ27)、RCAは通常のButtonだったが、LCAはCabrol風の8mm Interpositionだった。Cabrolは、後ろを通した場合RCAの屈曲、前を通した場合LCAの屈曲が起こりやすいが、この吻合ならば余分にLCAを剥離する必要もなく出血を最小限に出来る(inclusion風)、出血の確認が出来る、などの点から、参考になる術式であった。
 自分の症例では無かったが、CABG後のStanford A dissection、そして極めつけはPseudo-dissectionでCPBまで回された症例を見ることが出来た。誰が医療費を払うのだろうか? CT(E)中に、造影剤が胸に漏れ出している破裂症例を経験したことがあるが、CTがとれればいいし、とりあえずOp室でTEEでの評価が有効か。
 金曜日は庭でBBQ、これが習慣となってきてしまった。
8/18
10.0
Jog
   患者のチャックをした後、そのままNC Metroparkへ。随分慣れてきたということか。夕方からオケを聞きに、Blossomへ。ワインがおいしかった。
8/19
       Web siteで患者の状態をチェックした後、当番の同僚に電話で指示を御願いする。今日は動物園に行きたかったのだが、朝から雨が降り続くので、ネットサーフィンをして旅行の情報を収集する。
8/20
       #28 AR,aAo An,AVR(CE25)+Hem26、#29 AS,AVR(CE23)、たかがAVRなのにAVBが多すぎる。今日も見ていて、この1針は深すぎるよと思ったら、案の定だった。運針の数、深さに原因があることは明らかだ。それからもう一つ、Circulatory arrest後の痙攣が多すぎる。
 Sipmple is the best、しかし術後評価が"Simple=どんぶり勘定"ではいけない。これで一ヵ月半生き抜いてきたが、日本の良い点悪い点、アメリカの良い点悪い点が、随分見えてきたように思う。
8/21
       #30 Marfan,DA,s/p Elephant trunk, Elephant 2nd Stage、癒着も無く、Anも大きくなく、易しいケースであった。#31 CAD,CABGx3(LITA-LAD,SVG-CX,RCA)、もう一本D1にいるんちゃう? 連日19時を越えてしんどい。
8/22
       #32 AR2+,aAo An, modified David、67歳でもこのオペ。Dr.Sの最高齢は、73歳だそうだ。Valveの部分は20分かかっているので、CHOPのDr.S方式の縫い方の目安となろう。Davidな後も休ませてはくれない、#33 Mediastinitis, s/p CABG,aAo replacement, re-aAo replacement(Homograft)、patent LITAありなので循環停止ありのどろどろの手術だが、迷い無く切っていく姿勢は素晴らしい。この手術はまだまだ自分では出来ないことを痛感する。帰りは22時過ぎ、足にくる。
8/23
       #34 AR4+, AVP、うまく直すものです。この感覚をしっかりとこの目に焼き付けなければいけない。#35 Mediastinitis,HD,Resection of the sternum, muscle flap、限局性のものだが、これで治ればいいのだが。『血管外科でのAmputationに匹敵するのが、この手術だな』、というDr.Sの言葉が、がむしゃらにSternumをむしりとっていく姿が印象的であった。今日も遅くなる。
8/24
       今日は一例のみ、#36 AS(bicuspid), aAo An, mini-AVR(CE23),Aortoplasty。AVBがPM dependentとなって、難渋する。来週はPM implantか。今日はビールを飲んで寝る。
8/25
     

 回診、昼に帰宅。睡眠をとる。先週は良く働いた。

医師不足対策考 日本でも地方を中心に、徐々に医師不足に対しての報道がされるようになってきた。さて、その対策について考えてみたいが、果たしてそれは的を得たものであろうか?

(1) 補助金? 何に対してのお金なのかがはっきりしない。医師の給料?金さえ出せば医師が寄ってくると思っているその考え自体に、幻滅する医師は多いのではないだろうか。補助金などと言う小手先の対策では無く、医療費に踏み込む時であろう。

(2) 医学部の定員? その入学した学生が使い物になるまで、何年かかると思うのか、それを補う給料はどこから出すのか、総額は同じで分母が多くなるだけ?

(3) 集約化? 箱は同じならば、それは集約化では無い、撤退である。多くの疲弊を生むだけである。本気で集約化したいなら、一県一病院構想を、地方では無く国が主体で示してもらうたい。

 医療訴訟額上限枠の策定、夜勤後の休日の確保、各病棟秘書の派遣、院内暴力に対する断固たる対応、看護士業務の拡大(特殊勤務枠の策定)、、、お金を使わなくても、制度を変えることによって素晴らしい効果を見出すことを可能にするのが政治である。

8/26
       当直、随分慣れてきたが、Sick patientが多すぎる。

 日本でアメリカで、存分すぎる研究をしてきた。日本でアメリカで、とことんまで臨床をしてきた(現在進行形)。日本でアメリカで、学生への教育にも従事してきた。もちろんその結果に自分が満足しているわけではないのだが、『日本の医療に貢献したい』、という初期の理想をかなえることは、今後出来るのであろうか。別にここまでしなくても、現在の日本が必要としている『医師』は、黙々と日常業務をこなす医師ではなかろうか。いろいろな疑問を感じながら、今日も当直の夜は更けていく。
8/27
       当直明けで帰宅してから、死亡。夕方前に起き出して、庭の芝刈り、夕食を作る。
8/28
       #37 86M,AS,CAD,Distal Arch An,CABGx3,AVR,Elephant trunk、組織が脆い、はがれそうなプラーク、そして術後出血で遅くなる。Surgical bleedingは無いという自信があったので、粘って押さえ込む。
8/29
     

 #38 AR3,Asc Ao Aneu,AVR,Aortoplasty、場所が変わって自分の今までのやり方を変えなければいけないのだが、流されることなく自分のスタイルを構築していかなければいけない。#39 ASr1,CAD,AVR(Magna19),CABGx1(SVG-RCA)、術前CI=1.3のへろへろAS。

8/30
     

 #40 Distal arch aneurysm,Elephant 1st stage、日本だったらTakamoto法の一期手術です。#41 AR3,aAo An,mini AVR(CE),Ascending H26。やっと胸の開け閉め、Cannulationが始まった。

8/31
       #42 AAE,David、弁のバランスが悪くて(私はそう思った)AR1+、CPB乗せ直して試みるも変わらず、ややストレスのある手術であった。これで終わりかと思いきや、みんなバカンス体制に入るので、もう一つ最後に飛んできた。#43 AS,CAD,AVR(SJ23)+CABGx3、早く帰りたいDr.Sがいらいらしているのが手術室全体に広がる。糸結びはうまいと思うDr.Sだが、CABGの吻合糸を含めて4回も糸を切っていた。
 今は傍観者であるが、メンタルトレーニングの必要性を痛感する。
   
16.0
     また更にあっという間に一ヶ月が経ってしまった。毎日が勉強である。
(1) 手術手技 全く執刀の機会は無し。ようやく胸の開け閉め、Cannulationぐらい。
(2) 臨床力 アメリカは、普通の患者は問題無いが、合併症のある患者の治療、複合領域疾患のフットワークが非常に悪いように思う。数を見れるのは大きな魅力ではあるが。
(3) Journal 読むのは出来た。


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